←目次 音部大輔の「マーケティング視点」

市場創造は、マーケティングの最も重要な役割である。テクノロジーだけでは市場創造は完結できない。市場創造の要諦は、製品属性の順位を転換することで「いい○○」の定義を変えることにある。

 新市場の創造は成長の手段でありつつ、ロマンと冒険を感じさせる。既存市場でシェアを削り取るよりも高い成長率。激しい競争にさらされないことによる高い利益率。大きく広がる市場成長の可能性。そのために「革新的な新技術が必要だ」そして「世間が驚くような新商品を産み出そう」と考える。

 多くの市場創造が新技術や新商品などのテクノロジーによるイノベーションによってもたらされたが、テクノロジーだけでは市場を創造しきれないことも多い。画期的な製品を作ったのに意外と売れない、という失敗を多くの企業が経験している。市場創造を効果的に進めるためにはマーケティングの要素が不可欠だ。では、マーケティングは市場創造にどのように貢献するのだろうか。新技術への認知を確立するだけではない、もっと重要な役割を担っている。

競合はいない、という幻想

 「革新的なイノベーションで市場を創造するので、競合はいない」という考え方がある。社内外の士気や期待を高めるためには重要なレトリックだが、現実的には競合は存在する。

 よほど革新的な市場が創造されても、それだけで消費者の総消費額が増えるわけではない。極めて単純なことであるけれど、総消費額が増えるには収入が増えるか貯金を取り崩す必要がある。新商品を購入するときには、明確に意識していなかったとしても、何かと入れ替わっているものだ。貯金を減らすほど強力な誘引を期待するのは、不可能ではないにしてもあまり現実的ではない。

 携帯電話が高校生に普及し始めた頃、カラオケボックス業が縮小するという現象が起きた。あまり明確に認識しにくいことだが、カラオケは歌を歌いに行く場というより、歌うことを通して社交をする場となることが多い。より良い社交体験を提供する携帯電話の登場によって、社交の場を提供していたカラオケボックスは顧客の一部を失った。

 新市場を創造するから競合はいない、と考えるとこのような競争関係を見誤ってしまう。こうした潜在的な競争相手を「ソース・オブ・ビジネス(Source of business)」と呼ぶが、不明確なままでは効率的な競合対策を立案しにくい。反対に、もし分かっていれば効率的な活動を用意できるだろう。

ソース・オブ・ビジネスとは潜在的な競争相手