小麦粉業界のトップ、日清フーズが満を持して“片栗粉”市場に参入。「水溶き不要」で使えて唐揚げもサクッと仕上がる、「魔法の粉」の秘密とは? 斬新なボトル容器で使い勝手の革新を果たした「日清 水溶きいらずのとろみ上手」のブレイク度を占う。

日清フーズ「日清 水溶きいらずのとろみ上手」

●実勢価格/税別260円(ボトル)、税別300円(チャック付き)
●容量/100g(ボトル)、180g(チャック付き)
●種類/調理用ミックス
●発売時期/2月末

 麻婆豆腐やエビチリのとろみ付け、あるいは唐揚げや竜田揚げの衣にと、家庭の手料理に欠かせない名脇役といえる片栗粉。中小メーカーがひしめき、長らく大きな変化のなかった市場だが、今春、ここに新風を吹き込もうとしているのが、小麦粉市場で4割程度のシェアを握るガリバー、日清フーズだ。片栗粉では、ほぼ“門外漢”といえる同社が、2月末に発売した調理用ミックス「日清 水溶きいらずのとろみ上手」の1カ月間の出足は、「流通への配荷が好調に進み、ひとまず想定通りの売れ行き」(日清フーズ加工食品事業部の水田成保主査)。今後、テレビCMの投下を予定しており、販売が加速する見込みだ。

 そもそも片栗粉とは、粉末にした馬鈴薯デンプンのこと。加熱すると糊化するため、料理のとろみ付けに使う際には、あらかじめ水で溶かして使うのが一般的だ。その点、とろみ上手は、調理中に直接振りかけるだけで簡単にとろみを付けられ、料理の手間を減らせるのが画期的。また、長細い袋形状の商品が多い片栗粉に対し、容器デザインにも工夫を凝らしている。とろみ上手はボトル容器で、キャップ部分は一方が細かい穴が空いた粉を振り出しやすいタイプ、もう一方は計量スプーンを差し込んですり切りしやすいタイプと、2Wayで便利に使い分けられ、保存性も高いのが特徴だ。

料理中に粉を振りかけるだけでとろみがつくので、非常に便利

 とろみ上手の構想が生まれたのは、3年ほど前のこと。前身となるのは15年に発売された「日清 クッキングフラワー」だ。これは通常より粒度が大きめでサラサラと振り出せる新開発の薄力小麦粉で、とろみ上手にも採用した2Wayキャップ容器入りの商品。従来の袋入りの小麦粉より良好な使い勝手が受け、発売後1年間で300万本以上が売れたヒット商品に育った。その後、2Wayキャップ容器を活用したシリーズは、唐揚げ粉やてんぷら粉、パン粉と続き、とろみ上手で5品目になる。

とろみ上手の前身といえるクッキングフラワー

 「『粉が舞ってキッチンが汚れる』『使用量の調節が難しく、保存しにくい』など、実は小麦粉と片栗粉に対する消費者の不満は似ている」と、水田氏は話す。実際に、クッキングフラワーのユーザーからは片栗粉バージョンを求める声が多く挙がり、早々に検討を始めたという。しかし、とろみ上手の発売まで要した時間は約3年。その間、開発の現場では何に苦戦していたのか。

 同社の消費者調査によると、既存の片栗粉に対するユーザーの不満は大きく2つの方向性に分かれる。

 まずは保管時の不満。通常の片栗粉は、①「パッケージが自立しない」(33.6%)、②「保存しにくい包装形態」(28.6%)、③「チャックが付いていない」(22%)などの不満が挙がった。これらに対しては、クッキングフラワーの2Wayキャップ容器を転用することで容易に解決できそうだが、事はそう簡単ではない。実は、粒子が非常に細かい片栗粉をボトルにそのまま入れるだけでは、粉が底に固まってうまく振り出せないのだ。

 また、片栗粉の使用時の不満は、①「粉が舞う」(41.8%)、②「キッチンが汚れる」(30.8%)、③「水溶きした片栗粉が余ってしまう」(17%)などがメイン。これらも、主に細かすぎる片栗粉の物性に起因する問題だ。そこで同社は、「サラサラとして飛び散りにくい」「ボトルから振り出しやすい」「水溶きせずに使える」という機能を兼ね備えた新たな粉の開発を決めた。

 これらをクリアするために同社が着目したのは、デンプンの種類と、粉の粒度だ。数百種類あるといわれるデンプンのなかから、一般的な片栗粉に使われる馬鈴薯デンプンに加え、小麦粉由来など複数のデンプンを選び出し、それらをブレンド。かつ、それぞれの粒度を大きめに調節することで、「水溶きせずに使っても素早く分散し、サラサラと振り出しやすい最適解を探り当てた」(日清フーズ開発グループの桑原明香氏)という。

左が通常の片栗粉、右がとろみ上手。右のほうが粒が大きいのがわかる

 困難を極めたのは、揚げたときのサクサク食感を両立させることだ。「意外かもしれないが、片栗粉で唐揚げを作る人は小麦粉と半々くらいの割合」(水田氏)といい、避けては通れない道といえる。ただ、単純にデンプンの粒度を大きくするだけでは、鶏肉などに振りかけた際、うまく粉が付かない。それが片栗粉らしいサクサク食感を損なったり、白く粉が吹いた理想の見栄えにならなかったりする。そこで同社は粒度の調節で試行錯誤をさらに繰り返し、現在の粉にようやくたどり着いたのだ。実はすでに「水溶き不要」をうたう片栗粉はあるが、揚げたときの仕上がりの良さは、とろみ上手に分がある。

きれいに白い粉が吹き、サクッとした食感に

料理の“やった感”を手軽に演出できる

 とろみ上手のメインターゲットは、家庭で料理をすることが多い40代以上の女性が中心。さまざまな料理にとろみを付けると、素材に味がよく絡むので塩分を抑えて薄味にすることができ、近年は家庭で介護食を作るニーズも増えているから、とろみ上手にとっては追い風が吹く。

 また、ボトル容器は100g入りの小振りなサイズで、キッチンに並ぶ他の調味料と一緒に置きやすいのもポイント。通常の片栗粉は家庭でのストック率が8割を超えるといわれるが、多くは棚にしまわれたまま。そのため、片栗粉を使おうと思ったときに賞味期限が過ぎていたり、1袋を使い切れなかったりした経験がある人も多いだろう。これを解消するのがボトル容器の狙いで、「日陰の存在だった“片栗粉”をキッチンの表舞台に引き上げる」(水田氏)という。いちいち棚から取り出すのが面倒で、普段は片栗粉を使わずにちょっと手抜きをしていた人も、とろみ上手なら使用頻度が高まるはずだ。

小容量の可愛らしいボトルで、キッチン映えする

 それだけではない。とろみ上手は、料理を作る人のモチベーションを上げる格好のアイテムにもなり得る。単なる野菜炒めでも、実はとろみを付けるだけで途端に凝った料理のようになり、とろみ上手なら「“やった感”を手軽に演出できる」(水田氏)からだ。これは、料理に苦手意識を持つ若い世代のインサイトを刺激するポイントだろう。同社はレシピ動画サイトで活用メニューの紹介を行う他、SNS連係キャンペーンなどデジタル施策を中心に行い、若い世代に商品の斬新さ、手軽さを訴えていく構えだ。

 最後にとろみ上手の価格は、100g入りボトルで税別260円。通常の片栗粉は400gで同250円程度なので、かなり強気の価格設定といえる。ただ、クッキングフラワーも従来の袋入りの小麦粉より価格は大幅に高いが、使い勝手の良さや無駄なく使い切れる点が評価されてヒット商品に育った。水溶き不要、ボトル容器入りという使い勝手の革新を極めたとろみ上手も、初年度200万本以上という販売目標は決して不可能な数字ではない。

ヒット予報
 水溶き不要で使える片栗粉は一部メーカーがすでに商品化しているが、振り出しやすいボトル容器を採用し、かつ唐揚げに使った際にサクサクとした仕上がりをしっかり出せるのは特徴的。キッチンに置いて気軽に使いやすいため、これまで片栗粉を使いこなせていなかった料理ビギナーにも受け入れられるだろう。
【記者が試した!】
 実際にとろみ上手を使って料理を作ってみると、その利便性の高さは想像以上だった。麻婆豆腐はひと通り素材を炒めて味付けをした後に、とろみ上手を数回振りかけて自分好みのとろみに調節していくだけ。事前に水溶きしておいた片栗粉が余ってしまうことも、水に溶く片栗粉の最適な量でいちいち悩むこともない。もちろん、唐揚げの衣もきれいに付き、片栗粉らしい理想のサクサク食感に仕上がった。

(写真/古立康三)